■地方記者日記136
とんでもない |
by大谷地恋太郎 |
山口県光市の母子殺人事件に絡んで、大阪弁護士会の橋下徹弁護士の発言が、波紋を広げている。事件の被告の弁護をしている弁護人の言動を「カルト集団」「チンかす」などと罵詈雑言の言葉を並べ立てて批判して、懲戒請求をテレビで呼びかけた。これに対して当の弁護士グループが、損害賠償請求訴訟を起こした。
橋下弁護士はテレビ番組に盛んに出演している有名な弁護士だ。そして、かなり過激な発言が、右傾化するテレビにはマッチしていて、人気者になっている。
その人気者が発言すると、その視聴者を見事に反応して、懲戒請求を次々と出した。弁護士は、弁護士会から除名されると、弁護士活動ができなくなる。つまり職業そのものを奪う行為である。それを、橋下弁護士は煽動してやってのけた。
とんでもないことだと、私は思う。
民主主義の世の中にあって、裁判はその根幹を支える制度だ。そして弁護士は、被告である人間の権利を守るために存在する。極論を言えば、どんな悪い奴にだって、弁護士を立てて、その弁護をすることが、民主主義では大切なことなのだ。
その大切な活動を、橋下弁護士は批判して、懲戒請求を煽動した。これで業務妨害であることはもちろん、民主主義を否定する言動であることを、彼自身気付いていない。
タイトルに「とんでもない」と書いたのは、彼の言動に対しての感想だ。
僕ら新聞記者にしてもそうだ。
気に入らない人間の意見や活動をおかしいからと言って、こうした言動をすることは絶対にしない。反対意見があるなら、紙面に紹介する。これが民主主義だ。
橋下弁護士はたぶん、悪い奴に、弁護活動は要らない、と考えているのだろう。
そして悪い奴を早く処刑したい、という被害者の感情に移入した視聴者が、橋下弁護士の発言に共鳴してしまい、それが懲戒請求という暴挙に出たのだろう。
これは絶対におかしい。
民主主義を否定するなら、彼自身、弁護士でいる必要はない。検察官か裁判官になればいい。自由な発言を許容するからこそ、民主主義は成り立っている。民主主義を享受している橋下弁護士が、それを否定するのは、実にコミカルでもある。
橋下よ、そんなに光事件の弁護人の活動が嫌いなら、弁護士を廃業して、コメンテーターになって発言をしたらどうだろう。
弁護士、というバッジを失うのは怖いから、それも出来まい。
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(続き)
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