大谷地恋太郎の地方記者日記

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作者紹介
ペンネーム:大谷地恋太郎
日本各地を転々とする覆面記者。
取材中に遭遇した出来事や感じた事を時に優しく、時に厳しくご紹介します。

(以下は大谷地氏とは関係ありません)

玉井 喜作(1866-1906)
現在の山口県生まれ。広島、東京で医学やドイツ語を修めた後、1888年(明治21)札幌農学校(現在の北海道大学)にドイツ語教授として着任。1891年(明治24)に退職、1892年(明治25)にはシベリアを横断して単身ドイツに渡り、月刊誌『東亜』を刊行するなどジャーナリストとしても活躍した。

■地方記者日記145
 暴力
by大谷地恋太郎

 ある町の温泉街の温泉施設で、そこで働く職員が、暴力団の男に脅された。禁煙の建物で喫煙をしていたのを注意されて逆ギレし、居座った。暗にカネを要求しているのが分かった。そのうち職員はノイローゼになり入院した。
 暴力を背景に、一般人を脅すという、卑劣な行為だ。
 それにしても多い。温泉街で見かける暴力団風の男の姿だ。
 温泉街の温泉に浸かっていると、よく見かけるのは、入れ墨をしている男たちだ。店の入り口には、「入れ墨の方、お断り」と看板が掛かっているが、そんな注意にお構いなく、彼らは入っていく。そんな入れ墨の威力をこれ見よがしにして、一般人に恐怖を与えるようにして、温泉に浸かっていく。
 お湯にどっぷり浸かっていると、入れ墨をした男が入ってきて、逃げるに逃げられない時も何回もあった。
 タットー。入れ墨。いろいろな言い方はあるが、要するに多くは暴力団、ちんぴら類の人間だ。歴史はともかく、私たちが温泉で見かける入れ墨の男は、この類の人間だ。
 だが、当の温泉の旦那衆は、こうした暴力団の動きに、反応は鈍い。
 警察に届ければいいのに、と思うが、なかなか届けようとしない。届けたとしても、被害届ではなく、事件相談だけであって、単なる話でしかない。
 職員がノイローゼになったのだから、脅迫の容疑で届ければいいのだが、それをしようとはしない。
 なぜなのか。
 なぜ毅然とした態度を取らないのか。
 最初は分からなかった。
 最近、この疑問の答えが分かったような気がする。
 要するに、清濁飲む、ということなのだ。きれい事だけでは生きていけないのが、温泉街なのだ。
 ここの温泉街は、実は暴力団幹部の出所祝いにも使われる。不況の温泉街のホテルにとって、暴力団もとてもカネになるお客なのだ。騒ぎさえしていなければ、断る理由はないのだ。お客さんでもある以上、暴力が表沙汰になるのは避けたい、と思うのが信条なのだろう。清濁飲む、というのは、このことなのだ。
 外部から見て実に歯がゆいのだが、この街の人たちにとって、生活がある以上、暴力団といえども受け入れなくてはならない収入源でもあるのだ。
 そういう現実を知って、一部だろうが、暴力団の男は開き直る。開き直って、暴力をちらつかせて、一般人を脅す。
 地方の温泉街は、都会と違って、暴力団の男たちが、一般人が利用する店まで入って幅を利かせる。東京や札幌のような大都会では信じられないような光景が、毎日のように続く。
 暴力追放、なんて夢の夢だ。

(続き)



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