■地方記者日記146
経理の話 |
by大谷地恋太郎 |
地方で一人勤務をしていると、雑用が想像以上にある。その一つが、月末に近づくと本社に出さないとならない経理の書類だ。これが結構大変だ。
新聞各紙の代金を支払い、光熱費の領収書を保管し、必要な経費の領収書を集める。新聞各紙の代金は支局によって、スポーツ新聞まで認められるところもあるが、多くは主要三紙と地元紙だけだ。光熱費は新聞各社によってまちまちのようだが、多くは半額ぐらいまでが経費として認められている。あとは文具代とか、仕事で使っている乗用車のガソリン代、出張の際のホテル代や出張手当など。各社ばらつきはあるが、すべてが認められるということはない。
十年単位で考えると、文具代などは以前は完全に認められていたが、最近は認められなくなったり、出張手当は削減されたり、次第に経理が厳しくなっている。バブル経済の時は、交際費も、若干ではあったが認められていたが、ここ数年厳しくなり、ついには全く認められなくなった。車のガソリン代金も、県内での給油しか認められなくなったり。要するに全社を通じて経費削減が現在でも進行中なのだ。
理由は二つありそうだ。
一つは、新聞社の経費のあり方に、国税局が厳しく監視するようになったことだ。ここ三十年、国税当局は消費税の導入とともに、マスコミ報道の批判の対象になってきた。その趣旨返しが、新聞やテレビの経費の洗い出しなのだ。
たとえば新聞記者が取材相手と酒を飲んで、これを交際費として数万円の領収書を受け取ったとしよう。本人は認められる経費として本社の経理の窓口に請求する。会社側は本人に支払う。その数万円と書かれた領収書が、最終的には国税当局が細かく点検しているのだ。一万円しか支払っていないのに、十万円と書いてもらった領収書を、国税当局は一枚一枚、その店を訪れて点検し、本当かどうか監視しているのだ。もし、インチキが見つかれば、申告した金額を修正しなくてはならない。こうしたやりとりが水面下でここ十年ほど続いている。インチキな領収書をもらって、会社側に違法な請求をしていたことが明らかにされれば、その記者の社内生命はなくなる。ここ数年、記者やテレビマンが経費を水増ししていた、というニュースが絶えないのは、その国税当局の監視の結果である。
これが経費の削減となった大きな理由だ。
そしてこの国税当局の監視の強化を口実に、社員の経費を削減し出したのも大きい。
たとえば本社で勤務している社員は、電車通勤だろうから、通勤手当がもらえる。しかしこれっておかしい。通勤の必要なのだから、通勤の定期券を会社が用意すればいいのだ。これを給料の一部として通勤手当にしている。ということは、課税対象になる。一見給料が増えた錯覚に陥るが、なんて言うことはない、課税額が増えて手取りが減るのだ。国税当局は、サラリーマンからは税金を取りたい放題取っているというのは、まさに事実なのだ。
新聞社に勤める社員にとって、その新聞は昔から無料で配られていた。私もずっとそれが当然だと解釈してきた。しかし国税当局の強引な監視と指導という名の強制力で、これも課税対象としてきた。自社の新聞を受け取ることですら、課税してしまうのだ。恐るべし、国税当局、ということになる。
こうした国税当局の強引な指導が、経費節減という形になって地方に現れたということが言えよう。
ついでに書いておくが、携帯電話。これも各社、使った分は経費として認められているが、その際、相手の番号を記した明細書を付けないとならない。国税当局はこの明細書にも、厳しい目を光らせている。誰に電話したのか。国家当局の情報が漏れた場合、どの記者が誰に電話しているのか、把握しようとしている。これって、結構恐ろしいことだ。
だから、大切な情報源と酒を飲む時は自腹を切った方が、絶対安心だし、携帯電話も二つ以上持ち歩き、一方の電話代の請求はしない方が無難だ。
情報はここまで管理されているのだ。笑い話ではない。
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(続き)
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