「何だ! てめえ!」それは、突然にはじまった。 ガッシャーン!
瓶やグラスの割れる音がする。
「けんかだ!!」 通夜振る舞いのセッテングも終え待機していた私達は会場へ走った。
どうしたことか大の大人が二人取っ組み合いのけんかをしている。
親族たちは呆気にとられたのか、おろおろするばかり。
『怪我があってはいけない!!』
専務と当社スタッフが無言で興奮している二人を引き離した。
「なんだあ,おまえら!!」と一人が振り回した腕がものの見事にスタッフの顔面を直撃した。 かなり痛かったらしく、涙目になりながらも「まあまあ…」と、笑顔を張り付かせている。
「すみませんねえ、」青ざめた顔で片付けを手伝おうとする喪主様の手を制して、私は素早く割れたグラスを集めた。
カラオケをするという。亡くなったじいちゃんが好きだったから。通夜には鮨、刺身、毛がに、エビチリ等を用意して欲しい。酒は多めに…。それに答え十分揃えたはずなのに、夜遅く酒の追加注文がきた。
「それにしても、楽しそ過ぎないか…? 」
担当が心配そうにつぶやいた。
喪主のおばぁちゃんは茫然とした表情で静かにしており、孫娘はあきらかに憤っている。見るからに疲れきった顔のお嫁さんが、笑顔でお酌をして歩くのが痛々しい。空騒ぎの夜が、延々と繰り広げられる。
北海道はお通夜のほうが盛大だ。告別式の朝はキンと静っているような気がする。
「最後のお別れでございます。」
物言わぬ安らかな顔が、親族の手によって花で美しく彩られる。
幼い頃、抱き上げてもらった時のぬくもり、茶目っ気のある笑顔、もくもくと仕事をしていた背中。もはや共有することの出来ない想い出が、別れの悲しみとして深く胸に刻み込まれていく。
見ると、昨夜掴み合いの喧嘩をしていた二人が仲良く肩を並べ、おいおい泣いている。思わず貰い泣きしそうになり、目をしばたたせる。
人の心は複雑で、脆く傷つきやすい。そして無意識に傷を幾重にもガードしようと深い悲しみが屈折したあげく、馬鹿騒ぎの大笑いとなったり普段ならありえない子供じみた喧嘩になったりもする。
また、冷静で落ち着いていて間違いないと思った喪主様が、次の日には打ち合わせた内容をひとつも覚えていない、という事がある。「死」というあまりにも大きい衝撃に感情を失い、記憶を失い、涙すら忘れることもあるのだ。
葬儀屋は、いわば極限状態の中幾通りの状況・可能性を想定しつつ短時間に儀式を完遂させなければならない。
私達は、黒子に徹しながらも「葬儀」というものを単なる別れの儀式としてではなく、「癒し」の儀式としあまたの感情の受け
皿になりたいと努力している。
作者紹介
栗原眞由美
株式会社第一葬祭代表取締役。
先代である父と同じく、社のある札幌市白石区で誕生。地元を愛し、「誠心で最善を尽くす」をモットーに35年間誠意をもって商売を続ける。
株式会社第一葬祭
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